クリスマスタウン


 




 深夜のファミレス、退屈と暇潰しと、無駄話しのハーモニーが今夜も絶妙にそして大胆に鳴り響く。
アニキ「…なぁサブ?」
サブ 「なんすかアニキ?」
アニキ「俺この前さぁ、バイト辞めたって言ったじゃん」
サブ 「ええっマジっすか!?超初耳なんですけど」
アニキ「あぁ、店長ととんでもねぇ言い争いになっちまってよ」
サブ 「ど、どーしたんすか一体!?」
アニキ「店長によ、チョコ買ってこいって言われたんだよ」
サブ 「…はあ」
アニキ「んでもって俺は、良いっすよーなんつってロッテのチョコ買ったわけよ」
サブ 「ロッテですか」
アニキ「まぁ何つーの、やっぱロッテってば優勝チームっつーかよ、監督の名前バレンタインっつーかよ、やっぱ気合いの面で差がでるっしょ」
サブ 「そ、それでどーしたんすか?」
アニキ「したらいきなり店長ブチギレてよ、俺はメイジのチョコしか口に入れねぇんだよぉー!とかぬかしやがった、そんでもちろんロッテボーイの俺様は黙っていらんねぇじゃん?マジ、バイト先を半壊させちまったよ!これだから明治生まれは気にいらねぇ」
サブ 「明治生まれの爺さんと喧嘩したんすか…」
アニキ「おぅ、なかなか年の割に良いフットワークだったぜ!」
サブ 「…」
アニキ「ん、どーしたよサブ?オメェ何かおとなしくね?」
サブ 「…アニキ、チョコは明治っすよ」
アニキ「オメェ今、何つった?」
サブ 「これだけは譲れないっすよ、チョコは明治以外考えらんないっすもん、はっきり言ってアニキは邪道っす!馬鹿野郎っす!!」
アニキ「んだとコラァ!言っとくがなぁ、馬鹿って言った方が馬鹿なんだからなあ!!」
サブ 「ガーナチョコレートなんて意味分かんないっすよ!ガーナである必要性が分かんないっすよ!」
アニキ「ロッテは世界中をグルンぐるん回ってやっとこさ世界に通用するナイスなカカオを発見したんだよ!分かるかロッテのその気持ち!?」
サブ 「…じゃあこうしましょうよ、ここのウェイトレスさんに聞いて決めましょう!」
アニキ「良い度胸してんじゃねーか、よしそれ乗ったぁ!」ピンポーン。
 この究極の難問をウェイトレスの姉ちゃんの答えにゆだねる、これはさりげなくも、かなり度胸のいる行為であった。答えが出た瞬間にどちらかの常識、そして尊厳が完璧に否定されてしまうからである。
ウェイトレス「おまたせいたしました、追加のご注文でよろしいですか?」
 この時、二人は驚いた。「以外に可愛い…」そして二人は思った「決断する者にとって不足なし!」…と。
アニキ「御注文ではなく、御質問しても良いか?」
ウェイトレス「えっ、はぁ」
アニキ「俺とコイツだったら…」
サブ 「違うでしょ!」
アニキ「そーだったすまんサブ、なんだか舞いあがっちまってよ」
サブ 「気持ちは分かりますが、ここは我慢のしどころっすよ」
アニキ「そーだな、よく言ってくれた」
ウェイトレス「…」
アニキ「ずばりチョコレートだったらどこのブランドが好きだ!?」
ウェイトレス「えっ、わ私ですか」
サブ 「おうよ、姉ちゃんに決めてほしいんだ」
ウェイトレス「私は…そーですね、ゴディバのチョコレートなんて好きですけど」
アニキ「…アビバ?!」
サブ 「ご、…あ〜はいはいゴディバね!」
アニキ「な、何サブおめぇ知ってんのか!?」
サブ 「えぇっアニキ知らないんすかゴディバ!?」
アニキ「し、知らないはずないだろ〜ゴディバだろゴディバ、もう常識だろ〜」
サブ 「で、ですよねぇ〜」
アニキ「ま、まぁ何つーか内角低めのストレートって感じだよね」
ウェイトレス「は、はぁ」
サブ 「あ、あ〜何か分かりますそれ、ゴディバっすね〜」




 土曜日の夕方、電車の中、窓の外にはクリスマスのイルミネーションがポツポツと…。車内は空いているのでユキは席に座った。ユキはため息をつきながら思う、友達から勧められたアイスクリームダイエット、確かに効果てきめんだった。しかし体調が明らかにおかしい。めまい立ちくらみ、体力も落ちている。そこに酔っ払いがユキにからんでくる。
オヤジ「おぅおぅ姉ちゃんよ〜聞いてくれよ〜実は俺スパイでよ〜今CIAに狙われちってんだーよー」
 ユキは体調不良と電車の揺れで気分が悪い、ユキは思う「あの映画のように、あのドラマのように、あの小説のように誰か助けてほしい、でもきっと叶わない願い、おとなしく次の駅で降りよう…」その時だった。
謎の声「待てぇい!」
オヤジ「な、なんだぁオメェ?」
電車男「君はエルメス、僕はオアシス、山はアンデス、川はガンジス、みんな大好き電車男…登場!!」
オヤジ「…けっ」
 次の駅。
電車男「オイ姉ちゃん大丈夫か?」
ユキ 「う〜ん、ありがと大分よく…ぅぇぇ」
電車男「あーあーあー」
 15分後。
電車男「はいコーヒー飲める?」
 電車男コーヒーをユキに渡す。
ユキ 「コーヒー飲めないココアが飲みたい…」
電車男「…この野郎」
ユキ 「ココアは森永しか飲まないからね」
電車男「…こだわりだ?」
ユキ 「うん、こだわりだね」
電車男「他に欲しいものとかは平気?」
ユキ 「んじゃあアイスクリーム」
電車男「はぁ!?姉ちゃんこのクソ寒い中アイス食いたいんか!?…え〜、それもこだわり?」
ユキ 「違う、ダイエット」
電車男「だ、ダイエット…」
 これがユキとゲンジ(電車男)の最初の出会いだった。ちなみに言っておくが、この後は某ベストセラー小説のようなドラマチックさはない。普通にノリで付き合ったようだ。




 十二月始めのこの街は、だんだんと建物も人々もにぎわってきた。クリスマス本番まではまだ二十日以上あるのに…。そこに一人、バイトを終え街中を歩く男がいる。特に予定もないのにただ帰るのが何だか淋しい気がして喫茶店で時間を潰そうとしているのだ。しかし日曜日の街は人が多くなかなか空いている喫茶店はみつからない。四店舗目にやっと席の空いてるスターバックスを発見した。彼はいつものカフェモカと、少し考えた後マシュマロクッキーを注文した。席につき、カフェモカを一口飲んだ時、彼に一人の女の人が話し掛けてきた。
女「あの〜、相席して良いですか」
男「ん?…」
 男は思う「以外に可愛い…」と。
男「え、あっはいはい良いっすよ!!」
女「ど…どーも」
 前に座った彼女を見て、男は思った。確かに可愛い、しかし何かこの女には足りないものがあると。髪は黒髪のショート、顔はふちなし眼鏡に化粧なし、服装は黒黒黒!!上から下まで真っ黒けっけ。はっきり言って地味なのだ!顔は良いのに魅力はナシ!例えるならば、タコの入ってないカリカリたこ焼き、道具を持ってない一流マジシャン、自分の才能に気付いてない天才少年…実におしい、惜しすぎる。男がそんな下らない事を考えている時、女はまた別の事を考えていた。つい相席を頼んだが、他人と二人で一つのテーブルを囲んでしまった…。しかも何だか彼は私をチラチラ見ている気がするし…、私って自身過剰なのかな。あぁどうしようこの場合はやはり何か話掛けるべきなのだろうか、それともかえって邪魔になってしまうのでは…。そんな事を考えている内に一つの結論に達してしまった。これは神さまの試練なのだ!ここをうまく乗り越えなくては私に未来はない!根性だ!気合いをみせろ!!!!
女「お、おおお…オイ貴様!」
男「…えっ俺?」
 男は当然思う、何だいきなりこの女は…と。
女「そ、そーだ、お前…です」
男「な、何?」
女「そ、その…くっ、クッキーかそれは?」
男「えぇっ!?…あ〜うん、クッキーですよ」
女「う、うま…うまい…のかそれは?」
男「あぁっ?あ〜うん、美味いっすよ」
女「そ、そ〜かそ〜か、うむ良かったな!」
男「は、はぁ」
女「そ、それだけ…だ」
 女は自分の行なった行動が超裏目に出てしまったため、心底後悔した。その場で泣きだしてしまいたかった。しかしそんな事をしてしまったら、さらに悪い方向に行くと思い、必死に我慢した。女は思う、これで私に未来はなくなった、と。
男「あ、あの?」
女「えっ、あっはい?ぜ、全然大丈夫です!泣いてないです!!」
男「へっ?…あ、あのクッキーいります?」
女「…く、クッキー?」
男「あっいや、だってさっき…」
女「えっ、あっはい、あり…ありがとう」
 男から食べかけのマシュマロクッキーをもらい、女はとうとう泣きだしてしまった。乗り越えた!これで私にも未来がある!!泣きながらクッキーをむさぼった。男は一口だけ食べさせるつもりだったが、彼女は全てたいらげた。その食べっぷりはとても気持ち良かった。クッキーの甘味が口いっぱいに広がり、女はとても幸せな気持ちになった。それを見ていた男は思った、泣くほど美味いのか…?と。
女「あ、ああああ…ありがとござい…ます」
男「いいえぇ…」
 これがケンタとアンの出会いだった。その後、ケンタはバイト帰りの度に同じスターバックスに通いつめ、一週間後、二人は遂に再会を果たした。
ケンタ「あの、相席して良いっすか?」
アン 「えっいや、あ、あ、ああああ…はい」
ケンタ「クッキー好きなんすか?」
アン 「えっ…あぁっ!」
 なかなか素敵な再会シーンだった。その後、二人はよく会うようになり、ちょっとずつ愛を育んでいった。アンもちょっとずつメイクを覚えていった。




 十二月も中盤に入り、街はほぼ完全にクリスマスシーズンに入る。男達はプレゼントの為にバイトに励み、なおかつ最高のシチュエーションを求め雑誌を熱読する。この時機に絶対にしてはいけない事が一つある。それは、ズバリ喧嘩である。これをしてしまうとクリスマス本番を一人でいつかのメリークリスマスを聴きながら過ごす事になってしまう。
 場所はベックス・コーヒー。
ゲンジ「バッキャロー!もちろんアイスはハーゲンダッつーの!!」
ユキ 「何をゆーか、アタシはアイスクリームの食べ過ぎで命を失い欠けたんだぞ!アイスは味より量だ、バリエーションだ、31(サーティー・ワン)アイスクリームだ!!」
ゲンジ「あんなトリプルなんてゆう、オモシロ企画で人気を狙うよーな店、俺は認めん、専門店なら質で勝負しろ!」
ユキ 「言ってくれるじゃないか、じゃあアタシも言わしてもらうけどさ、ハーゲンダッツにチョコミントがあるかぁ!?伝統だか何だかしらないけど、そんな爺臭い事言ってるから現代のニーズに答えれてないんじゃないの!?」
ゲンジ「十分答えれてんじゃんよ!和食ブームの時だって抹茶味だしたじゃねーか!チョコクラシックだって、甘さひかえめで大ブレイクじゃねーか!どっかの最新映画館なんかじゃ映画観ながらハーゲンダッツ喰えるんだぞ!流行りのコラボレーションだぜ!」
ユキ 「…もう知らん」
ゲンジ「その言葉、そっくりそのまま返す」
ユキ 「いらん!!」
 ユキ立ち上がる。
ゲンジ「おいユキ何処行く気だよ」
ユキ 「知らん!ゲンジには関係ないだろう!!」
ゲンジ「んなっ!?…そーかい悪かったな、んじゃあバイバイ」
ユキ 「バッ!?…オゥじゃーな」
 確かに二人は出会ってからあまり経っていないが、それにしたってブキッチョな二人である。しかしその三日後、ゲンジとユキは、出会った時と同じ電車、同じ車両で奇跡の再会を果たした。しかもユキは出会った時と同じように、酔っ払いに絡まれていた。
オヤジ「めぇりーくりすまぁーす!うぃ〜」
ユキ 「うるさい酔っ払い!近づくな」
オヤジ「そんな事ゆーなよー、俺は家にも居場所がねぇんだよ〜かまってくれよぅ」
ユキ 「知らん!どっか行け!」
ゲンジ「アキバチョーップ!」
 ゴツッ!
オヤジ「ぎゃふん!ま、またテメェかぁ」
ゲンジ「それはコッチのセリフだぁ!」
オヤジ「な、なにぃ?」
ユキ 「ってかアタシのセリフだぁー!!」
オヤジ「ひぃっ!」
 酔っ払い逃げ出す。
ゲンジ「…」
ユキ 「…何のようだ」
ゲンジ「…すまん」
ユキ 「…アイスクリームは何が好きだ?」
ゲンジ「さぁてぃ…」
ユキ 「聞こえない」
ゲンジ「今!…今はサーティーワンだ!!」
ユキ 「ダメ!」
ゲンジ「だっ!…ダメか!?」
ユキ 「アタシは今はハーゲンダッツな気分だ!」
 二人は無事クリスマス前に仲直りし、遂に舞台はクリスマス・イブへと突入する。




 街はイルミネーションが狂い咲き、巨大なクリスマスツリーがそびえる立つ。恋人たちは寄り添いながら、この夜をより特別なものにするために思考を巡らせる。そこに待ち合わせ場所に向かう二人の女が偶然出会った。
ユキ「そこの少女、チョット良いか?」
アン「えっ…えええっ!あっ私の事ですか?」
ユキ「その通りだ、良いか?」
アン「は、はい何ですか?」
ユキ「実は東口のクリスマスツリーを探してるんだけど、どうも見当たらないんだ」
アン「ほ、本当ですか!?」
ユキ「アタシは嘘はつかない」
アン「じ、実は私もそこに向かってるんです!待ち合わせですか?」
ユキ「そうだ、待ち合わせだ」
アン「私もです、よかったぁ、何だかこうゆう雰囲気って慣れなくて…」
ユキ「アタシは、まぁ余裕だな」
アン「そ、そうですか…あっ着きましたよ、ここです」
ユキ「相方はまだついてないみたいだな」
アン「わ、私の方もまだみたいです」
ユキ「つーか彼女を待たせるとは何て男たちだ!なぁ?」
アン「えっいや…はい」
ユキ「ん、どーしたぁ赤くなって?」
アン「いやっ、あのだって男たちって…」
ユキ「だって彼氏を待ってるんでしょ?」
アン「…はい」
ユキ「…可愛いなぁお前!」
アン「えええっ!そ、そんな」
ユキ「ギューってしたい感じだな、動物で例えるならウサギとか言われるでしょ?」
アン「えっいや…はつか鼠って言われます」
ユキ「そっちかぁー!」
 ユキとアンがなにげに仲良くなっている頃、遅刻ぎみの男達は別々の道から彼女たちのもとへ、しかもほぼ同時に…3…2…1…。
ゲンジ・ケンタ「マジごめん!道が混んでてさぁー…あっ」
ゲンジ「…」
ケンタ「…」
アン 「…ケンタさん?」
ユキ 「どーした?」
ゲンジ「さ、サブゥー!!」
ケンタ「あ、アニキィー!?」
ゲンジ「な、何でサブおめぇがこんなとこに居んだよ!?」
アン 「さぶぅ?」
ケンタ「アニキこそ何してんですかぁ!?」
ユキ 「あにき?」
アン 「ケンタさん知り合い…ですか?」
ゲンジ「け、ケンタって誰やねん!?」
ケンタ「俺のことに決まってるじゃないですか!」
ゲンジ「なに言ってんだ、お前サブじゃん!」
ケンタ「本名ですよ!」
ゲンジ「なにぃー!?」
 この日、ゲンジ(アニキ)はサブの本名がケンタである事を知った。
 ケンタも言わなかったが、アニキの名前がゲンジである事を知った。
 果たしてこれをクリスマスの奇跡と呼ぶべきであろうか、というか呼んで良いのだろうか…。しかし私は思う、彼らはきっとこの事がなかったら一生本名を知らないままであっただろう。私は呼びたい、クリスマスの奇跡…と。




 深夜のファミレス、退屈と暇潰しと、無駄話しのハーモニーが今夜も絶妙にそして大胆に鳴り響く。
サブ 「アニキ、遂に発見しましたよ!」
 サブ、紙袋を見せる。
アニキ「あぁ?何だよそれ」
サブ 「伝説のチョコレート、ずばりアビバですよ!」
アニキ「なんだと!サブおめぇ遂に発見したかアビバ!」
サブ 「はい!カトチャがCMしてる割りに落ち着いた店内でした」
アニキ「マジかぁー、やっぱやる時はやるんだなアビバ!!」
サブ 「アビバ!」
アニキ「アビバ!!」









ふぃん
 




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